クー・フリンと女性たち:デルヴォルギル Derbforgaill(アイルランド神話・赤枝説話群)

2018年6月21日

エウェルという素晴らしい伴侶がいながら、未遂も未婚の時期も含めて、恋多いクー・フリンまじリア充。

その相手はアイフェであり、ファンドであり、デルヴォルギルであり、スカサハの娘ウアタハとも関係があったと思うのだが、デルヴォルギル 〔Derbforgaill, Dervorgil〕はなんか、いろいろ可哀相。

デルヴォルギルとは?

ジャン・マルカルの『ケルト文化事典』に説明があるので引用する。

クー・フリンと会ったこともないのに惚れてしまい、ハクチョウに姿を変えて英雄の前に現れる。クー・フリンは投石機から石を撃って、ハクチョウに傷を負わせたため、傷口を舐めて治してあげる。ところが、傷を舐めたことから、血のつながりができ、女と性的な関係を結ぶことができなくなる。女はそこでクー・フリンの「妹」になる。クー・フリンはデルヴォルギルを友の一人に嫁がせる。その後、デルヴォルギルは、嫉妬深い女たちに殺される。クー・フリンは妹の仇を取る。
ジャン・マルカル 著, 金光仁三郎,渡辺浩司 訳 『ケルト文化事典』
大修館書店(2002)

ストーリーがハイスピードすぎて戸惑いますが、この女性は何の話に出てくるのかというと、Aided Derbforgaill (「デルヴォルギルの最期」)に登場します。

Ingridsdotter, Kicki (ed. and tr.), “Aided Derbforgaill ‘The violent death of Derbforgaill’: a critical edition with introduction, translation and textual notes”, PhD dissertation: Uppsala University, 2009.

Marstrander, Carl (ed. and tr.), “The deaths of Lugaid and Derbforgaill”, Ériu 5 (1911): 201–218.

Aided は人や動物の非業の死を意味する。B.マイヤー『ケルト事典』「アデド《最期》」
つまり、これは「デルヴォルギルの死」の物語となる。

登場人物は主に、クー・フリンとデルヴォルギル、Lugaid Riab nDerg の三人です。

デルヴォルギルは Lochlann 王の娘。
Lugaid Riab nDerg は、この話ではクー・フリンの里子として出てきています。(Cú Chulainn and his fosterling Lugaid, that is, the son of the three Finn Emna,

デルヴォルギルはクー・フリンとは結ばれなかったけれど、代わりに Lugaid Riab nDerg と夫婦になり、二人の間には子どもが一人生まれています。

この後は Lugaid をルギドと表記します。

『デルヴォルギルの最期』

あまり自信のない訳ですが、だいたいこんな流れ。

クー・フリンとデルヴォルギルの出会い

ロホラン王の娘デルヴォルギルは、話に聞くクー・フリンのことを愛していた。デルヴォルギルは侍女と一緒に、白鳥になって Loch Cuan までやってきた。二羽の白鳥は金の鎖でつながっていた。

クー・フリンとルギドが湖のそばに来たとき、彼らは白鳥を見た。

「あの鳥を撃ちましょう」とルギドが言い、クー・フリンは白鳥に石を投げつける。
石はあばら骨の間を抜け、子宮に当たった。すると、二羽は人間の姿になって湖岸に現れた。

クー・フリンは傷を負ったデルヴォルギルから、石を吸い出した。

「私は貴方を探しに来たのです」と、デルヴォルギルは言った。

「残念だな、きみ」
「おれは(石を)吸い出すために側にいるが、きみと結婚はしないよ」
「では誰か、貴方がいい人を私に下さいますか」
「そうだな。アイルランド中で最も高貴な男、ルギドと一緒になるのはどうだろう?」
「私は構いません」
デルヴォルギルは言った、「クー・フリンをいつも見ることができるのなら」と。

デルヴォルギルはルギドと共にいき、彼との間に一人の子を産んだ。

女たちの嫉妬

ある冬の日がきっかけで、デルヴォルギルは死ぬことになる。

大雪が降った日に男たちが雪で大きな柱を作り、女たちはその柱に向かった。
そして女たちは、男たちが作った大きな柱(の中)に排尿をする。女たちは誰も地面まで届かなかった。

そこで、デルヴォルギルが呼ばれることとなる。
デルヴォルギルは愚かではなかったので、呼び出しに応じたくなかったけれど、柱のところに行く。

女たちの間で排尿コンテストが行われているのは、どうも性的魅力と関係があるらしいです。
コナハトのメイヴ女王も『クアルンゲの牛捕り』の中で排尿するところがありますね。

女たちは誰も地面に届かなかったけれど、デルヴォルギルは届いたため、このことを男たちが見つけたら、彼女と比較してどの女も愛されない、と女たちは言う。

そして、デルヴォルギルはいったい何をされたのか……というと、こんな具合。

May her eyes be snatched out of her head, and her nostrils, and her two ears, and her locks. She will not be desireable then.
Ingridsdotter, Kicki (ed. and tr.), “Aided Derbforgaill ‘The violent death of Derbforgaill’: a critical edition with introduction, translation and textual notes”, PhD dissertation: Uppsala University, 2009.

その後、彼女は館に戻される。クー・フリンが登場し、デルヴォルギルの館を見て奇妙だといい、ルギドは「彼女が死にそうだ」といった。

デルヴォルギルとルギドの死、クーフリンの復讐

クー・フリンとルギドがデルヴォルギルの館に入ったとき、彼女の魂は既に彼女の体の中になかった。
それから、ルギドは亡くなった彼女を見るやいなや、死んでしまった。
クー・フリンはデルヴォルギルの復讐を果たし、誰も生きて返さなかった。

夫婦ともども……

“Aithed Emere le Tuir n-Glesta mac rig Lochlann”(The Elopement of Emer With Tuir Glesta, Son of The King of Norway)では、Tuir Glesta が、Lochlann 王の息子として出てくる。

『デルヴォルギルの最期』(Aided Derbforgaill)では、 Lochlann 王の娘であるデルヴォルギルがクー・フリンと関係するが、クー・フリンの妻エウェルが駆け落ち(アテド Aithed)する話にも Lochlann の王子が登場するなんて、夫婦ともども Lochlann の人と一体……何を……。

Meyer, Kuno (ed.), “Irish miscellanies: Anecdota from the Stowe MS. n° 992”, Revue Celtique 6 (1883–1885): 173–186
pp.184–185 ‘The elopment of Emer with Tuir Glesta, son of the King of Norway’. Edited and translated.)