『アイルランドの文学精神──7世紀から20世紀まで』松岡利次(岩波書店)

2018年6月19日

個人的に、アイルランド神話好きがアイルランド文学史を読むなら、この本はめっちゃ楽しいと思っている。少なくとも私はとても楽しかった。

クーフリンを主人公とした物語群などについては、「第三章 土着文学の再話」が当てられている。

リンク アイルランドの文学精神 - 岩波書店

この本の帯には、次のような文が書いてあって、ワクワクするじゃないか……!

神話・説話の世界とアングロ・アイリッシュ文学──神話的想像力と批判精神が共存する特異な精神圏への航海

今まであまり扱われなかった中世と近世初期の文学も含めて、多様なアイルランド文学全体を見渡して、それぞれの作品の真髄を表している文章を抽出し、それら自身に文学精神を語らせる」──筆者はあとがきでこのように書いている。『アイルランドの文学精神──7世紀から20世紀まで』で引用される作品の多くは筆者による翻訳であり、私自身あまり知らなかった作品も多くあった。アイルランド文学が、アイルランドの歴史を意識した中で語られているため、知的好奇心をかなり刺激された。

「アイルランド文学年表」が入っていることや、「作品解題+人名索引」ではより詳しく知るための参考文献が示されているので、興味がある人間が「次」にアクセスしやすくなっている。

松岡 利次『アイルランド地名考』 言語と文化(3), 2006年, 113-127頁. これを加筆したものが「土地の記憶」の章として収められている。

目次を読む

凡例
神話の人びと

序章 懐古する予言

  • 予言する死者
  • 異界
  • 異文化接触
  • 時の重積
  • 中世文学の基層
  • パロディ
  • 列挙と円環

I  異界

第一章 異界行

  • 時の重積――聖コルム・キレと異界の若者との対話(九世紀)
  • 時を渡る――トゥアン・マク・カリルの変身譚
  • 時の交錯
  • 異界からの訪問者
  • 楽土の淫乱
  • スヴネの狂乱
  • 聖愚者マク・ダー・ヘルダ
  • サウィン
  • 創成神話としてのクアルンゲの牛捕り

 第二章 予言

  • 死にきれない死者
  • 終末への憧れ
  • 死の予言のパラドックス
  • 死者と生者の往来
  • 禁忌と運命
  • 通夜
  • 循環する予言

第三章 土地の記憶

  • 地名の誕生
  • ディンヘンハス(地誌)
  • 古老達の語らい
  • 「アイルランド」の語源
  • 地名の英語化
  • 地名の呪い
  • 英語化のジレンマ
  • 地名のよみがえり

II パロディ

第一章 古典遍歴

  • 聖人の島アイルランド
  • 遍歴するアイルランドの修道士
  • コルンバヌス――儚き生よ
  • エリウゲナ
  • 聖書の奇蹟
  • 聖書注解とラテン語文法
  • 西方風の語り(ヒスペリカ・ファミナ)
  • ラテン語のパロディ
  • 詩人の手引きオガム文字
  • ラテン語文学の翻訳

第二章 聖書のパロディ

  • 不安のパロディ
  • 呪いの諷刺
  • 初期アイルランドのパロディ
  • 聖書物語
  • 反キリスト
  • 聖人伝
  • マッコングリニの夢想

第三章 土着文学の再話

  • クー・フリン
  • アルスター物語群
  • 神話物語群
  • フィアナ物語群
  • 歴史物語群
  • 航海物語
  • 諺(知恵)文学
  • 写本『レンスターの書』
  • 写本の落書き

第四章 植民地の憂鬱

  • ゲール文化の継続
  • 支配される意識
  • イギリス支配の強化と偏見の生成
  • キーティングによるアイルランド史の創作
  • 偏見への反論
  • 帝国の論理に対抗する民族の創造

第五章 復活の幻想

  • ガリヴァー旅行記
  • 英語に対するこだわり
  • 伝統の創作
  • 伝統復活のパラドックス
  • 植民地人の気質と暮らし
  • 保守的,宗教的敬虔さ
  • コナハトの恋歌
  • 現代アイルランド語文学の維持
  • 北からの声

終章 屈折した言語のダイナミズム

  • アイルランド語衰退の不条理
  • 言語復活運動の偽善性
  • 英語の破壊
  • 境界の言語文学――ケルト
  • アイルランド文学の不安と揺らぐ優しさ

アイルランド文学年表
あとがき
参考文献
作品解題+人名索引