『イギリスとアイルランドの昔話』石井桃子 編・訳(福音館書店)

2018年6月21日

アイルランドの昔話目当てて、石井桃子(編・訳)『イギリスとアイルランドの昔話』(福音館書店)図書館で借りてきた。

イギリスの昔話の方の収録作品の原本については、ジョーゼフ・ジェイコブズ(Joseph Jacobs)が出した

  • English Fairy Tales (1890)
  • More English Fairy Tales (1894)

この二冊から話を選んで、話の出処や同型の話についての注釈をとった、子供のための一冊本を原本にしたとあとがきにある。

アイルランドの昔話の方の収録作品は、

  • ジョーゼフ・ジェイコブズ(Joseph Jacobs), “Celtic Fairy Tales”
  • ウィリアム・バトラー・イェーツ(William Butler Yeats)編, “Irish Folk Stories and Fairy Tales”

──に拠っている。

収録作品

イギリス

  • ちいちゃい、ちいちゃい
  • チイチイネズミとチュウチュウネズミ
  • 三びきのクマの話
  • かたやきパン
  • 三びきの子ブタ
  • ミアッカどん
  • おスだんなとおスおくさん
  • だんなも、だんなも、大だんなさま
  • 空の星
  • ヘドレイのべこコ
  • ふしぎなお客
  • りこうなお嫁さん
  • ジャックとマメの木
  • 姉いもと
  • スワファムの行商人
  • トム・ティット・トット
  • ものぐさジャック
  • ノロウェイの黒ウシ
  • 妖精のぬりぐすり
  • 巨人たいじのジャック
  • イグサのかさ
  • ディック・ウィッティントンとネコ

アイルランド

  • 元気な仕立て屋
  • どろぼうの名人
  • たまごのカラの酒つくり
  • ノックグラフトンの昔話
  • 白いマス(コングの昔話)
  • 主人と家来
  • 大男フィン・マカウル
  • グリーシ

各話の出典

イギリスの昔話ではほとんどジョーゼフ・ジェイコブズの“English Fairy Tales”から選び出しているが、

  • 「おスだんなとおスおくさん」
  • 「ノロウェイの黒ウシ」
  • 「イグサのかさ」
  • 「姉いもと」

これらの話は、フロラ・アニー・スティール(Flora Annie Steel 1847-1929)が再話した“English Fairy Tales”(1918)から採ったようだ。

アイルランドの昔話では

  • 「たまごのカラの酒つくり」
  • 「白いマス」
  • 「主人と家来」

をウィリアム・バトラー・イェーツの“Irish Folk Stories and Fairy Tales”から採ったと訳者あとがきにある。

ジェイコブズの“Celtic Fairy Tales”からは、次の四話。

  • 「元気な仕立て屋」
  • 「どろぼうの名人」
  • 「ノックグラフトンの昔話」
  • 「大男フィン・マカウル」

「グリーシ」(”GULEESH”)に関して、あとがきでの言及はなかったが、おそらくジェイコブズのものからだろう。

作品別メモ

アイルランド編

文章の長さがマチマチなのは興味の多寡によるものです、すみません。トンプソンのAT分類でどれに入るのか……などもいつか調べたい。

「元気な仕立て屋」

あまりにも元気すぎる仕立て屋が主人公。テンポもオチもいい。

「どろぼうの名人」

ずる賢い。

「たまごのカラの酒つくり」

チェンジリングとか取り替え子の類の話なのだが、ずいぶん救われる結末。

サリバンというおかみさんの息子が取り替え子をされてしまったのだけど、近所の人たちが熱心に教えてくれる「本当の子どもを妖精から取り返す方法」──生きながら鉄板にのせて焼く、鼻を赤く焼けた火ばさみで焼いてとってしまう、道ばたの雪の上にほうりだす、等──をする気にはなれなかったところ、フェアリードクターと思われるエレン・リアというおばあさんから教えてもらった方法で、無事に取り戻した話。

チェンジリング(Changeling)という言葉は、映画の題名にもなっているのでそれなりに知られているのではないだろうか。

リンク チェンジリング (2008年の映画) - Wikipedia

1920年代のロサンゼルスで実際に発生したゴードン・ノースコット事件の被害者家族の実話を元に映画化されたという、ショッキングなものだ。

チェンジリング(取り替え子)にはまた、「ブリジット・クリアリー焼殺事件」と呼ばれる事件もあって、これに関しては下楠昌哉 著『妖精のアイルランド : 「取り替え子」の文学史』(平凡社新書, 2005)を読んでみるといいのでは。他に、石井正己 編『現代に生きる妖怪たち』(三弥井書店, 2017)に入っている、渡辺洋子氏による意見発表「アイルランドの妖怪─妖精伝説を中心に」の中で取り替え子について触れられている。

 

「ノックグラフトンの昔話」

日本の「こぶとり爺さん」のような話。この二つはものすごくよく似ているが、ノックグラフトンの昔話だと二番目の爺さんが死んでしまうオチなので、日本のものよりもちょっと暗い。

こんな論文があった。

恥ずかしながら私は、井村君江訳と比べて、二つの表記が違うことに気づかなかったので(読み流していたんだろうな……)。それに、アイルランド語の知識がないと曜日が異なっているなどはわからない。

話の構成は本気で「こぶとり爺さん」そっくりなので日本でも馴染みやすい話だと思う。

「白いマス(コングの昔話)」

変身譚ではあるのだが、話のオチでキリスト教的な説教になって終わる。

「主人と家来」

妖精の主人と、酒飲みの人間の家来、オチはハッピーエンド。「神様、ご祝福を!」

「大男フィン・マカウル」

フィン(の妻)vsククーランというアイルランド二大英雄、夢の対決のはずなんだが……カリカチュアライズされて面白おかしくなっている。ノックマニーの伝説といえば分かりやすい人もいるかもしれない。

ウィリアム・カールトンのノックマニーの伝説を扱った論文があった。多分、私が最初にこの話について知ったのはこれを読んだときだと思う。

ウィリアム・カールトンにおけるフィン・マクール
田代 幸造
明治大学教養論集(265),p89-103,1994

また、 小辻梅子氏は『ケルト的ケルト考』でさらに英雄たちを徹底してパロディにしてみせるのが、「ノックマニィの伝説」である。と、この伝説を紹介している。(p139-142)

二人の時代は数世紀へだたっており、直接対戦ということはありえないのに、この民話ではその二人を一場に登場させて、徹底してからかってみせる。フィンは名声にこだわる臆病者であり、クーフーリンは力だけは噂どおりだが、頭のほうはからきしだめである。超大物の英雄たちを徹底してからかってみせるこのケルト民話のやり方はなんと言ったらいいのだろうか。呆然とするか、口をあけて唖然とするか、怒るか嘆くか悲しむか笑うかは、個人の資質と時代によって変わるとしても、『ガリヴァ旅行記』をはじめて読んだケルト以外の読者はこれと同じ感想を持ったのではないだろうか。小辻梅子『ケルト的ケルト考』社会思想社(1998)

ほんとに冗談じゃなく、フィンもクフーリン二人ともかっこよくないです。フィンがすごくむかつきます。クーフリンさんがアホの子ですが、なんか一周回って二人ともカワイイんじゃないかと思い始めている今日このごろ(笑)

あと、この民話は土地の由来譚も入っている。「フィンの土手道」はジャイアンツ・コーズウェー(Giant’s Causeway)のこと。それから、ラムフォード峡谷(Lumford’s Glen)はククーランが、ウーナからの頼まれごとをした際にできた分け目である。

「グリーシ」

主人公のグリーシはフランスの王女様と幸せに暮らしました。

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