『夢のウラド F・マクラウド/W・シャープ幻想小説集』フィオナ・マクラウド/ウィリアム・シャープ(国書刊行会)

2018年8月18日

どうも、櫟野もり(@1no_mori)です!

フィオナ・マクラウド/ウィリアム・シャープ(中野善夫 訳)の『夢のウラド F・マクラウド/W・シャープ幻想小説集』を少しずつ読み進めていたのでその感想です。

フィオナ・マクラウド名義の作品は、松村みね子訳『かなしき女王』や、荒俣宏訳『ケルトの民話集』で読んだのですが、シャープ名義の作品の方はこれで初めて読みました。

翻訳には、「Heinemann 社のフィオナ・マクラウド全集および同社のウィリアム・シャープ選集を使用した」と訳者あとがきにある。

『夢のウラド』を読んだ後で……

どちらかというとシャープ名義の作品、人間ドラマを面白く読むことになった。

収録されている20篇のなかでは、「ジプシーのキリスト」 のような、血にまつわる何かで展開する話が私はどうも好きらしいです。

収録されていない作品から好きなものを選べと言われたなら、『ケルトの民話集』に入っている「罪を喰う人」 (The Sin-Eater) がイチオシなんですが。

『かなしき女王』にも「琴」というタイトルで入っている「クレヴィンの竪琴」 (The Harping of Cravetheen) は、コルマック・コンリナスがたいそう好み。これはアイルランド神話の人物を素材にしています。

 

マクラウド名義のケルト的な素材を使った作品や、キリスト教的な作品は、謎めいた味わいがあるといえばよいのでしょうか。
時には事典を引きながら、それらが扱っている素材の知識を試されるような気持ちで読んでいました。

元ネタも好きなので仕方ないというか……。
だけど、ケルト的な素材の知識すべて一日だけ完全に失ってみて、『夢のウラド』を読んでどんな風に感じるのか気になるので、できるなら一日だけ忘れてみたい気もします。

『夢のウラド』では購入者特典として翻訳者の中野善夫氏が制作された豆本企画なるものが行われ、私もtwitterで応募したところ……

結果: 本棚に飾っています。

本当にありがとうございました(`・ω・´)ゞ

【感想】 フィオナ・マクラウド名義の作品

島々の聖ブリージ

「島々の聖ブリージ」は、ゲールのマリアとも言われる聖ブリジッド伝承を下地にしています。キリスト教の聖人ではない、異教の女神を思わせる、思わずぞくっとするシーンもあってとても良い。

ルーエルの丘

「ルーエルの丘」は、世界の王としてミディルと、エテンという名前の美女が出てきます。登場人物からアイルランド神話の「エーダインの求婚」が背景知識として求められていると思うのですが、タイトルにある「ルーエル」が何なのか、はっきりとわからない。

もしかしたら、神話に関連するのかもしれない、などと想像する。
ルーエルという土地にまつわる話がありそうだ。……わからないけど。

丘というと、生まれ変わったエーダインの夫になったエオヒド・アレウ王の弟アリル・アングヴァとの逢瀬に指定した丘を思い出すのですが、マクラウドの作中ではアリルではなくアルトです。

アルトといえば百戦のコンの息子アルトが有名だと思うのだけど、うーん……。つらつらそんなことを考えながら「ルーエルの丘」を読んでいたので「エーダインの求婚」の話がなんとなく読みたくなってきた。

【感想】 ウィリアム・シャープ名義の作品

聖なる冒険

「聖なる冒険」では、〈躰〉〈魂〉〈意志〉が会話をする。そして旅をする。

私は単純な人間なので、これは松岡利次『ケルトの聖書物語』に紹介されていた「魂と肉体の会話」のような話に素材をとったのではないかと思いました。

 

ですが、読んでみるとむしろ「聖パトリックの煉獄」や「トゥヌクダルスの幻視」のような、異界探訪に近いような気もしてくる(これらの話は講談社学術文庫から出て手軽に読むことができるのが嬉しい)。一緒に旅をしているような気がしてくるのだ。

(この連想はやや強引かという気持ちはある──が、そう思ったということは読み直したときのために書いておきたかったので残しておきます)

ふと思ったこととしては、「私たち」として〈躰〉と〈意志〉と〈魂〉がずっと一緒に側にいてくれたならきっと、夜の孤独の寂しさとかはないだろうなということでした。

ずっと一緒だったものが別れた時はとても心許ないのではないだろうか。こんなことを考えるのは、自分がもう一人いたらきっと話が楽しいだろうと、いつも考えているせいかもしれないですが……。

涙の誕生と死、そして再生

冒頭の「世知辛い日常生活から一瞬にして夢という暴君の支配下へと入っていけるのは」という一文で、会った途端に一目惚れのような気分になった。

夢という暴君ってなんか好きな言い方です。こういう、冒頭で一目惚れした作品というのはたいてい自分の好みの話であることが多いので、これも例に漏れず、気に入りのものになりました。

まとめ

シャープ作品の方は、マクラウド作品よりも現代小説っぽくて個人的には読んでて楽しかった。その割に感想が出てくるのはマクラウド寄り、何故だ。

どちらの名義の作品でも、なんとなく登場する女性はどこか似てる部分があるような気がする。

個人的にですが、『夢のウラド』を読んだ人が素材にした神話や伝承の方にも興味を持ってくれるといいなあ、と思いました。だって、その方が多分、マクラウド作品の方はグッと楽しめると思うんですよ。

『世界神話伝説大系40 アイルランドの神話伝説』(名著普及会)や、ポプラ社から出ている『国際理解にやくだつ世界の神話〈5〉ヨーロッパの神話』などを読んでみてほしいと思う。きっと、アイルランドやウェールズの神話を知っていて損はないです。

「アイルランド来寇の書」、「エーダインの求婚」、「フェルディアとクーフリンの戦い」、「タリエシンの物語」、「ダヴェドの王プイス」、それに「解説」がケルト神話として入っています。

「髪あかきダウフト」は、ブルターニュのイスの町伝説を素材にしているし、他の作品でも、伝承を知っているとマクラウドの世界観を深く楽しめそうな気がします。イスの町伝説は、ラ・ヴィルマルケの『バルザス= ブレイス ブルターニュ古謡集』の邦訳が出版されたので「髪あかきダウフト」がちょっと気になった方はどうぞ。イスの町伝説が読めます。

ケルティック・テクストを巡る』(中央大学人文科学研究所翻訳叢書)に収録されている『ダ・デルガの館の崩壊』は、「ルーエルの丘」に出てくるミディルとエテンの話である「エーダインの求婚」から繋がる話ですのでよかったら、読んでみてね。

……マクラウド/シャープの翻訳がまた新しく出て「罪を食う人」が新訳で読めたらなあ、なんてことも考えています。

さて、次は何を読もうかな。三ヶ月位引きこもって積読崩しに勤しみたいのだがそうもいかないのが悲しいものです。

それでは、また。

もっとケルティックな何かを読んでみたい人へ

作家別作品リスト:マクラウド フィオナ
青空文庫でマクラウド作品が無料で読める。『かなしき女王』が公開されていますのでこちらも是非!