クー・フリンの妻:エトネ・イングヴァ(アイルランド神話・赤枝説話群)

2018年8月12日

illustration by Stephen Reid from Eleanor Hull, The Boys' Cuchulain, 1904

クー・フリンの妻はエウェル(Emer)だろ……って、わかった上でのタイトルですのでご安心ください。

ご周知の通り、クー・フリンの妻はエウェルさんと知られているんですけど、エトネ・イングヴァ(Eithne Ingubai) という女性がクー・フリンの妻となっていることもあるって話。話の中で名前が出てこなくなるけど、多分妻だと思われる。

アイルランド文芸復興期の作品、ウィリアム・バトラー・イェイツ(W. B. Yeats)の “The Only Jealousy of Emer” ではエウェル、ファンド(Fand)に加えてクー・フリンの若い恋人として、このエトネが登場しています。

日本イェイツ協会の学会誌『イェイツ研究』のバックナンバーはオンラインで全公開されていますので、エトネを取り上げている論考も読むことができた。

「三つの顔をもつ女神──イェイツの The Only Jealousy of Emer について」
原田 美知子, 『イェイツ研究』28号 (1997)

どの話に登場するの?

『クー・フリンの病』(SERGLIGE CON CULAINN [The Wasting Sickness of Cúchulainn])に登場します。
「エウェルのただ一度の嫉妬」(The Only Jealousy of Emer)のほうがよく知られている題名かもしれない?(どうでしょうか?)

この話は次の二つの写本、及び手稿に残っています。

  • Lebor na hUidre 「赤牛の書(”The Book of the Dun Cow”)」 ロイヤル・アイリッシュ・アカデミー附属図書館(ダブリン)所蔵
  • H. 4. 22.(MS 1363) ダブリン大学トリニティ・カレッジ(Trinity College, Dublin)所蔵

Lebor Buide Sláni(”The Yellow Book of Slane”)という写本からのコピーもあると考えられているらしいが、この写本は失われているらしく……残念ですねえ。(´・ω・`)

“The Only Jealousy of Emer” は、グレゴリー夫人(Lady Augusta Gregory)の “Cuchulain of Muirthemne”(1902) にも入っていますね。

その中でももちろん、エトネ・イングヴァは登場するのですが、後になると一切出てこなくなります。何故か主要人物のはずのエトネ・イングヴァがエウェルに変わる。

ここらへん、混乱するんですよね……(文句を言っても詮無きことですが)。

名前の語源

梅田修 『ヨーロッパ人名語源事典』 大修館書店(2000)の69頁、「アイルランドのアン」のところの説明に次のように書いてあり、語源的意味は「種子」らしい。

Anne や Annie は、アイルランドでは、また、エニェ(Eithne)の英語化された名前でもある。(中略)Eithne の語源的意味は「種子」であり、この名の変形としてはエトナ(Etna)、エドナ(Edna)、エナ(Ena)などがある。

アイルランド語辞書 の eDIL で etne を検索すると、「A kernel」の意味が出てきたので、なるほど種子か……。

では、次に。
松村一男, 森雅子, 沖田瑞穂 編 『世界女神大事典』 原書房(2015)の339-340頁、「エトネ(Eithne)」の項目を見てみたら、

etla(「清らかさ」)、etne(「クルミ」)、étan(「額」)、etan(「詩」)と関連。(中略)エーダインはエトネと同系の名である。

とあった……。一義というわけでもないでしょうしね。

ルグの母親の名前も、エトネ

長腕のルグは、ルグ・マク・エトネン(Lugh Mac Ethlenn)とも呼ばれるように、産みの母親は Ethniu(Eithne)です。ディアン・ケヒトの息子キアンと、フォウォレ族の長バロールの娘エトネが彼の親とされます。

息子のクー・フリンの妻ともされる女性の名前と、クー・フリンの父親とされるルグの母親が同系統の名前だってこと、この記事書くまではあまり認識してませんでした。

……で、だからどうした? と言われるとそれ以上のことは何も考えてないですけど……。

それでは、また。ゆるーくケルト趣味を楽しんでいきたいですね。

参考文献・サイト