『ケルト 再生の思想──ハロウィンからの生命循環』鶴岡真弓(ちくま新書)

2018年8月21日

鶴岡真弓氏の新書が出てたので6月購入、7月末に読了しました。実はこの方の著書読むの初めてだった。訳書はいくつか持ってるんですけども……。

自分が美術関係に興味が薄いのもあったので、新書になって、更にあんまり美術史ばかりの話ではなさそうだな、と手にとってみた。しかしながら私は読者力が低いのか、知識が足りないのか、感受性が乏しいのか、想像力が欠けてるのか、おそらくそこらへんの理由で最後まで何を論じてたのかよくわかんなかったです。

書評にリンクしましたので、この記事よりそちらを読んで下さった方が百万倍いいと思います。

リンク ケルト 再生の思想 ハロウィンからの生命循環: ハロウィンからの生命循環 書評|鶴岡 真弓(筑摩書房)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」

リンク ケルト再生の思想 鶴岡真弓著 暦の叡智にみる生命の躍動 :日本経済新聞 (栩木伸明氏による書評 ※有料記事)

個人的な記録として「わかんなかった」を残しておくのがこの記事の目的です(´・ω・`)

よくわからなかった点を自分なりに考える

芸術人類学っていうのに馴染みがなくてむずかしい。

「サウィン/ハロウィン」のテーゼである「死からの再生」「闇から光へ」の観念を軸に、ケルトの人々、いやおそらく「大自然」の下に生かされている人間一般が、一年を生き抜く知恵としてもった「四つの季節祭」に典型的に示されている、「循環的生命観」を、筆者は解き明かそうとした。

と、まず表紙に抜き書きがあって、帯には暦に封印されたハロウィンからの円環 死から再生が始まるとある。えらいロマンチックな感じですね。

そもそもの話「ケルト」っていうことばが何を指すのか掴みにくいという問題があります。地域でもないし民族でもないですし。かろうじて言語学の分野では明確にインド=ヨーロッパ語族の中に「ケルト語派」という分類があるので、ここだけは安心して「ケルト」を使えるんですが。

この本の中で触れている民俗的な風習や祭りの話などは「こういうのがあったんだ」「こういうことをするんだ」と読んだんですけど、観念とかそういった話になると、興味深いとかつまらないとかそういうことじゃなくて、とんと理解できない。

個人的に面白かった、と言えるのが柊の王と樫の王の交替の話や、シェイクスピアの『ロミオとジュリエット』のジュリエットの誕生日に関するもの。それから、図版がたくさんあるのでよかった。

新書だからか? 注がない……

新書だからだとは思うんですが、注がないんですよね。参考文献は載っているので、関係ありそうなところを手に入れて……ってすればいいんですけど……でも……と絶賛放置中になっています。よくない。

知ってる話と違うけど確認しようがなくてモヤった

176頁にバロルがフィル・ヴォルク族の長で名前に原インド=ヨーロッパ語源の「邪鬼(mor-)」を含むって書いてあるのは違うんじゃないかな、と思います。それ、……フォウォレじゃないかな……。

ジャーミッドとグラーニャ(ディルムッドとグラニア)の物語について238頁で触れていますが、そのあらすじの細かい部分において、知ってる話と違ったので出典があれば知りたい。

アイルランドの「ジャーミッドとグラーニャ」の物語は、王家の娘で絶世の美女であるグラーニャが、城に集ったフィン・マク・クウィル率いるフィアナ騎士団を出迎えた時、老いたフィン王に求婚されたが、若き騎士ジャーミッドに一目惚れし、彼女は魔術まで用いて、ジャーミッドと相思相愛となり、結果、王の追っ手から逃れてアイルランド中を逃げ回ることとなった。グラーニャは身ごもる。しかしジャーミッドは「猪」に攻撃され、瀕死となる。そこへ追いついたフィン王は、彼女の懇願にもかかわらず、ジャーミッドに命を水を与えなかった。それを為そうと思い直したときは、時、既に遅し。ジャーミッドはグラーニャの腕の中で死んでいく。

「グラーニャの懇願にもかかわらず」の部分、ジャーミッドは自分で自分がフィンに対して何をしたかを語って治癒の力のある水を与えてくれるように言ってるヴァージョンしか知らないので、グラーニャが懇願してるのがあれば読みたいです。フィンの孫に当たる、オシーンの息子のオスカーが脅し混じりに、ジャーミッドを助けるようにフィンを思い直させるのだけど、結局間に合わなかったんじゃなかったか? となってる。

グラーニャの腕の中で死んだっていうのもな……猪と死闘してる狩場にグラーニャついていかないんじゃないか。で、ジャーミッドが死んだ後で、養父であるオイングスがジャーミッドの亡骸を持ち帰って「たとえもうダアモオトの身体を生き返らせることができなくとも、彼の中へ魂を吹きこみ、そして毎日自分と話しができるようにしてみせる」と言った、というのが『世界神話伝説体系41 アイルランドの神話伝説Ⅱ』で読んだ話なので、グラーニャの腕の中で死んだジャーミッドがいるなら、その話読みたい。

結論:感受性不足

鶴岡真弓氏の単著はこれが初めて読んだのですが、『古代王権の誕生 Ⅳヨーロッパ編』(初期王権研究会 編, 角川書店, 2003)所収の「ケルト「王族・戦士」の世界観—考古・美術からの解明」は一年ほど前に興奮して読んだ記憶があるので、今回は、やっぱり、まだ読む時期じゃなかったんじゃないかな、と反省。

それか私にまったく感受性がないんでしょうねえ……。

少なくとも「よくわかんなかった」とか言いたくはなかった。別の著書や参考文献に当たることでわかってくる部分もあるかもしれない、はず、と信じてこれからもケルト趣味続けていきます。

目次を読む

プロローグ 「ハロウィン」の起源──ケルト伝統の季節祭「サウィン」

第一章 「サウィン」と「ハロウィン」冬の祭日──死者を供養する「生命再生」の祭

  • 「ハロウィン」の現在──死者と出会う夜
  • 「トリック・オア・トリート」の始原
  • 「諸聖人の日」のイヴ、「ハロウィン」
  • 「サウィン」とは何か──冬越えの試練
  • 一年の締めと始まりの日
  • 宗教改革──「ハロウィン」の衰退
  • 「ジャックのランタン」の真実──近代システムを越えて
  • 「蛍の光」の作者と「ハロウィン・ゲーム」
  • 「闇の半年」と「光の半年」──古代ガリアの暦
  • 荒ぶる亡霊たちの「ワイルド・ハント」
  • アイルランドの「サウィン」神話
  • 「死と生」反転の意味
  • カオスから秩序へ
  • 闇から誕生する光

第二章 「インボルク」春の祭日──聖ブリギッドの「緑の牧場」と「赤い火」

  • 春の最初の日「インボルク」
  • 聖ブリギッドの十字架
  • 「ひよっこ」たちの予祝
  • ゲール人の聖母──聖ブリギッドの歴史と伝説
  • ケルトの異教と聖人たち
  • 「緑の牧場」の奇跡──酪農の守護神ブリギッド
  • 「ブリガンティ族」の女神
  • 「輝く者」とケルトの冶金術
  • 「火」と「炉」の女神
  • シンデレラ、「灰」かぶり姫とブリギッド
  • インボルクからキャンドルマスへ──「浄めの月」の火
  • ジャガイモと別れの伝統歌(シャンノース)

第三章 「ベルティネ」夏の祭日──「五月祭の起源」と闇から蘇る森

  • 夏の始まり──「ベルティネ」祭
  • ケルトの「ベルティネ」祭の歴史と現在
  • シェイクスピア『真夏の夜の夢』はベルティネのイヴの出来事
  • 「五月の木」と「メイポール」
  • 陽気の森のエロス
  • 「グリーン・マン」と「オーク」の木
  • 「樫の王」と「柊の王」の戦いと循環
  • アーサー王伝説「緑の騎士」のメタファー
  • 緑の妃と「希望」としての緑
  • ベルティネとワルプルギスの夜──ワルキューレとフェアリーの反対物の一致
  • 太陽と馬の女神──ウェールズの輝く王子と妃のメタファー

第四章 「ルーナサ」秋の祭日──穀物の「母神」と「収穫祭」

  • 八月一日の収穫祭
  • 安堵の季節のカップル
  • 「穂麦の乙女」
  • ジュリエットの誕生日はラマスのイヴ
  • 「穂麦の聖母」──黄金の穂の意味
  • 「ルーナサ」の起源──ルー神が祀った「育ての母親」
  • 休戦と大集会
  • 穀物神としての「息子と母」
  • 産みの母親エトネとルー神
  • 最後の収穫に立ち会う「鬼婆」
  • 「鬼婆」と「地の力」
  • ルーナサの巡礼
  • 「腰曲がりの黒主」の変容

第五章 『ケルズの書』──四つの季節祭を映し出す「生命循環」のアート

  • ケルトの「ヴァイタリズム」へ
  • 『ケルズの書』とは何か
  • 「キリストの頭文字XPI」──荘厳のイリュミネーション
  • 「抽象」と装飾主義
  • 異教の伝統とキリスト教との融合──「生きとし生けるもの」
  • 「異質なもの同士」の融合
  • 「フォルム」の価値
  • ケルト渦巻文様の誕生──メタル・ワークの秘密
  • 渦巻と生命循環の思想──融合のスパイラル
  • 終わりから始まる──「成りつつあるもの Becoming」をみつめて

エピローグ 「生命循環」をケルトの祭暦から読み解く知恵

あとがき

参考文献一覧/図版出典・所蔵先

この記事で紹介した書籍

  • 鶴岡真弓『ケルト再生の思想 : ハロウィンからの生命循環 (ちくま新書 ; 1286)』 筑摩書房(2017)