アイルランド最大の叙事物語『クアルンゲの牛捕り』は創成神話?

2018年8月15日

夏で死ぬかもしれないレベルでクソ暑いので、冬の話をするとしよう。

クアルンゲの牛捕りは冬の間に行われているとか、創成神話とかそういう話もあるんだよねっ!

サウィンからインボルグまで

実は民族的創成神話が存在する。アイルランド最大の英雄叙事物語である、『クアルンゲの牛捕り』がそれである。『クアルンゲの牛捕り』は、冬の三カ月、すなわちサウィンの十月三十一日夜から農作業の始まる春の始まりの二月一日(インボルグ)までに起こった物語である。サウィンにおける時の混乱状態は、創成の始まりであり、国造りの始まりであった。アイルランドの覇権をめぐって拮抗する二大勢力のコナハトとアルスターの戦いが終結するインボルグまでに国造りは完成する。

松岡利次 『アイルランドの文学精神―7世紀から20世紀まで』 岩波書店(2007)p.32

冬の期間については農事暦などの関係で理解していいのかな……と個人的に考えているのですが、民族的創成神話について、土地の由来の説明も多いのはわかっているつもりだったが、雄牛によって小規模な世界創造が行われているというのは考えてなかったな、と頷いた。

また、『クアルンゲの牛捕り』では、二頭の雄牛が争って、その結果として現在の地形ができたと述べられている。つまり雄牛によって小規模ではあるが、世界創造がなされているのである。

松村一男 『神話思考〈2〉地域と歴史』 言叢社(2014)p.626

ちなみに、『神話思考〈2〉地域と歴史』に入っている「古代アイルランドの南北問題──牛と鹿の伝説」は面白かったです。北の牛の伝承と南の鹿の伝承の対称性について、クー・フリンやフィン・マックールが好きな人は一読してみると面白いと思う。

クー・フリンが敵から「雌鹿」って呼ばれてるところ忘れちゃったんですが、「雌鹿」という言い方は、足の速さを称賛するのではなく、臆病者という軽蔑の言葉であろう。(p.632)とあってなんか……こう……なんか……(語彙力がない)

『アイルランド来寇の書』について

『アイルランド来寇の書』は創世神話か? といわれると違うしね……。いやまず創世された後の世界ですしね(ノアの大洪水前)。

盛節子氏の「『アイルランド侵入の書』考(1)──伝承・聖書・歴史的解釈をめぐって」という論考が大変参考になると思うのですが、 Leabhar Gabhála について冒頭でこのように述べています。

12世紀の『侵入の書』(Leabhar Gabhála、以下LG)は、ゲール民族に至るアイルランド侵入諸族とノルマン侵略までの王権の系譜を、初期中世アイルランドの伝承叙述と歴史編纂の規範を踏んで、「ノアの大洪水」以来の聖書的人類史を起点に辿った書である。盛節子「『アイルランド侵入の書』考(1)──伝承・聖書・歴史的解釈をめぐって」エール (13), 1993, p.57

神話というよりはアイルランドの聖書文学というか聖書神話……のひとつだと思って読んだほうがいいんじゃないかなーと個人的に思っています。いや、起源伝説ではあるんだけど……。

まったく関係ない話をしますが『アイルランド来寇の書』でリア・ファルをぶんなぐるクー・フリンさんとても好きです。

It is the Tuatha De Danann who brought with them the Great Fal, [that is, the Stone of Knowledge], which was in Temair, whence Ireland bears the name of “The Plain of Fal.” He under whom it should utter a cry was King of Ireland; until Cu Chulainn smote it, for it uttered no cry under him nor under his fosterling, Lugaid, son of the three Finds of Emain. And from that out the stone uttered no cry save under Conn of Temair. Then its heart flew out from it [from Temair] to Tailltiu, so that is the Heart of Fal which is there. It was no chance which caused it, but Christ’s being born, which is what broke the powers of the idols. (p.111)

Macalister, R. A. Stewart [ed.], Lebor gabála Érenn: The book of the taking of Ireland, 5 vols, vol. 4, Irish Texts Society 41, Dublin: Irish Texts Society, 1939.

自分の里子のルギドのために石が叫ばなかったのでふっとばしてるクー・フリン意外と里子思い……いやちが……里子思い……? ちなみにキリスト誕生とともに石は力なくしちゃったみたいですね。

……このルギドってデルヴォルギルの旦那のはずなんです。

過去記事 クー・フリンと女性たち:デルヴォルギル Derbforgaill(アイルランド神話・赤枝説話群)

最近お気に入りの話である “SONS OF DOEL DERMAIT”(The Exile of the Sons of Doel the Forgotten(Longes mac nDuil Dermait))でもクー・フリンと一緒に行ってるんですが、その話はいつかブログに書きたいな……。

話が脱線しましたが、最近創元社から出ていた『はじまりが見える世界の神話』(2018)ではアイルランドのところ何をいれたのか知らないので、今度読んでみようかなと思います。明確にそれとわかりやすい「はじまりの神話」ってアイルランドにはないという知識なので、気になってる。

参考文献