御者と主人の関係:クー・フリンとフェルディアの対比

2018年6月21日

クー・フリンとフェルディアの一騎打ちは『クアルンゲの牛捕り』の中で盛り上がるシーンの一つですが、「クー・フリン-フェルディア」の関係だけじゃなくて、「クー・フリン-御者」、「フェルディア-御者」の関係について考えるのも面白いと思います。

松村一男 「戦士・王者・救済–ケルト文化のインド・ヨーロッパ的諸相」(『ユリイカ』 第23巻, 第3号 (1991): p194–206.)を読んでいたところ、クー・フリンと御者の間の呼び方の話が載っていました。

リンク 神話思考 Ⅰ 自然と人間 – 言叢社

ちなみに、この論考は言叢社から出ている『神話思考〈1〉自然と人間』(2010)に収録されています。出版社の紹介ページでは目次も読むことができますので、興味があれば是非。

御者の呼び方 popa と呼ぶか? gilla と呼ぶか?

クー・フリンと御者の場合 “popa”

アイルランドでもインドでも御者の家系は世襲であり、貴族的な戦士とは上下関係がある。しかし、クー・フリンと彼の御者ラエグの間には強い友情がある。クー・フリンはラエグに対して普通に戦士が御者を呼ぶ際の gilla という呼び方の他に、 popa とも呼びかけているが、この語は文字通りには「パパ」であり、友人に対して用いられる。
松村一男 「戦士・王者・救済–ケルト文化のインド・ヨーロッパ的諸相」(『ユリイカ』 第23巻, 第3号 (1991): p194–206.)

“popa” の意味を、eDILで引いてみると、a father, hence master, sirと出てきてもう。

TBC² 445 . a popa Loíg, LU 5991 = a bobba a Laig, TBC² 1523 (Cú Chulaind to his charioteer), cf. TBC 642 , 2197 . a phobba Laíg,
popa. eDIL - Irish Language Dictionary

クー・フリンさんロイグのことを gilla ではなく、popa ってよく呼ぶんですね……?
(ロイグに対してまったく gilla を使わないわけではないですが)

仲が良さそうでなによりかと。

フェルディアと御者の場合 “gilla”

興味深いことに、フェル・ディアドは彼の御者を常に gilla と呼び、決して popa とは呼ばない。そしてこの御者は名前さえ述べられておらず、戦士と御者の間に友情関係がないことを示唆していると考えられる。
松村一男 「戦士・王者・救済–ケルト文化のインド・ヨーロッパ的諸相」(『ユリイカ』 第23巻, 第3号 (1991): p194–206.)

フェルディアの御者は名前すら出てこないことが本当に多いですが、Id mac Riangabra という名前で出てくることもあります。Joseph Dunn, “The Ancient Irish Epic Tale Táin Bó Cúalnge”, 1914

つまり、その場合、クー・フリンの御者とフェルディアの御者は兄弟関係にあるということに……。

「なんであいつのことばかり褒めるんだ? そろそろ俺達の間で争いが起きてもいいくらいだ」

フェルディアの御者があまりにもクー・フリンのことを褒めるので、フェルディアは御者に対してこんなことを言うくらいです。フェルディアの御者はフェルディアを励ます気持ちがなく、友情関係がない。

ロイグは体を張ってクー・フリンに尽くすのだけど、……というこの人間関係の対比が面白いと思います。

参考文献

  • Dunn, Joseph (tr.), The ancient Irish epic tale Táin bó Cúalnge, London: Nutt, 1914.
  • 松村一男 「戦士・王者・救済–ケルト文化のインド・ヨーロッパ的諸相」(『ユリイカ』 第23巻, 第3号 (1991): p194–206.)
  • 松村一男 『神話思考〈1〉自然と人間』 言叢社(2010)