『ローナーンの息子殺し』Fingal Rónáin(初期アイルランド文学・歴史物語群)

2018年6月21日

初期アイルランド文学で、歴史物語群に 『ローナーンの息子殺し』(Fingal Rónáin, Aided Maelḟothartaig meic Rónáin)という話があります。

レンスター王のローナーンが息子マイル・フォサルティグをどうして殺したか、という 「親族殺し」 の話。“fingal” は中世アイルランド法において「親族殺し」に関して使われた専門用語のようです。

初期アイルランド文学の中で、父親が息子を殺す話はクーフリンによる息子殺し(『アイフェの一人息子の最期』)が最も有名だと思いますが、『ローナーンの息子殺し』はあまり紹介されてないのでは? と思ったので、日本語で読めるものを紹介したい。

物語の邦訳は2018年6月現在、まだないようです。

事典は除外するとして、『ローナーンの息子殺し』についての章があるのは次の二冊。

辺見葉子「エヘドの娘の「恋」─中世アイルランドの文脈」
柴田陽弘 編著『恋の研究』 慶應義塾大学出版会(2005)所収

マイルズ・ディロン 著, 青木 義明 訳 『古代アイルランド文学』 オセアニア出版(1987)
〈Myles Dillon, Early Irish Literature, The University of Chicago Press, 1948〉

↓ディロンの『古代アイルランド文学』は、過去にこのブログで紹介記事を書いています。
『古代アイルランド文学』マイルズ・ディロン(オセアニア出版)

『ローナーンの息子殺し』

セネカ『パイドラー』と類似している

『ローナーンの息子殺し』は、ローマのセネカによる 『パイドラー』 との類似がよく引き合いに出されるようです。

「好色な継母」(T418)の民話モティーフをもつ話で、老いた王ローナーンの妻となったエヘドの娘が、ローナーンの息子であるマイル・フォサルティグに恋心を燃やすが、叶わず、エヘドの娘の讒言によりローナーンは息子を殺すことになる──。
しかしまた、「年老いた男の若い妻が若い男を愛する」(T92.12)という民話モティーフにも属していて、これは 『ウシュリウの息子たちの放浪』 のコンホヴァル、ノイシュ、ディアドラ、『ディルムッドとグラニアの追跡』 のフィン・マックール、ディルムッド、グラニアと同様の三角関係を描いた話でもあります。辺見葉子「エヘドの娘の「恋」─中世アイルランドの文脈」

登場人物

ローナーン Ronan son of Aed

レンスター王(紀元600年頃)
マンスターのデージィ族のイォーンの息子クマスキャフの娘エースネ(Ethne daughter of Cumascach son of Eogan of the Deisi of Munster)を妃としていた。

(エースネの死後?)マイル・フォサルティグに「何故妻を娶らないのか」と訊かれ、エヘドの娘を娶る。

マイル・フォサルティグ Mael-Fothartaig son of Ronan

ローナーン王の息子であり、王子。二人の息子がいる。
レンスター中で稀に見る眉目秀麗、聡明な男とされている。孝行息子。

エヘドの娘の侍女と愛人関係を持つ。
断固としてエヘドの娘の愛を拒む。エヘドの娘に対しての礼節は保っていたのだが……。

エヘドの娘(ローナーンの妻)the daughter of Eochaid

北部のダンセヴェリックの王エヘドの娘。個人名では呼ばれず、始終「エヘドの娘」として出てくる。
ローナーンの妻になるが、本人はマイル・フォサルティグにゾッコンである。

エヘドの娘の侍女

エヘドの娘から、マイル・フォサルティグとの間を取り持つように言われる。
マイル・フォサルティグの愛人になる。

コンガル Congal

マイル・フォサルティグの乳兄弟。

参考リンク