ディルムッドのゲッシュについて調べてみた

2017年10月29日

『世界神話伝説大系41 アイルランドの神話伝説2』(名著普及会)の中で引用されているデイニーン(Dineen)の『アイルランド事典』の中では、ゲッシュ(Geis)は

アイルランドに特有な繋縛(けいばく)であり、呪符であり、禁厭であり、不思議な力をもった差止めである。もしこれに違背するものがあると、非常な不幸を経験しなければならない。そしてついには死んでしまわなければならない『世界神話伝説大系41 アイルランドの神話伝説2』(名著普及会)

ものと説明されている。

もう少し詳しい説明を見てみよう。

ゲッシュとは

『ケルト文化事典』東京堂出版の「ゲシュ」の項目(p.211)がとてもわかり易いと感じたので、引用します。

「禁忌、タブー」を表す。この語源はguide(祈る)からきている。これを破ることは破った者の身の破滅を意味した。
当時の社会秩序を保つために、超自然的なものや神を冒涜することの禁忌や、性的な禁忌や、太陽の運行とは逆方向に旅するような特定行動の禁忌など、さまざまなゲシュが存在したことが明らかになっている。『ケルト文化事典』東京堂出版 「ゲシュ」項目(p.211)

これらのゲシュ(ゲッシュ)は予め決められていて、変更することはできない。

しかし、12世紀以降書き記された多くの物語のなかでは、実際に社会に存在したであろう禁忌やタブーに相当するゲシュとは違った趣のゲシュが登場し、さらにある人物が特定の人物の行動を規制するためにゲシュを課すという例が多くみられるようになるらしい。

クーフリンが『クアルンゲの牛捕り』のなかでコナハト勢に一騎打ちを強いるものとか、彼がクー・フリンという名前を得たために「犬の肉を食べてはならない」というゲシュが生じたなんてやつですね。

このほかにも物語中には同じようなゲシュが登場するが、これらはもはや実在したゲシュというよりも、物語を面白くするための語りの道具として使われていると言ってよいだろう。物語の中でゲシュが語られるときは、そのゲシュを破るだろう人物や動物の将来の破滅を物語の聞き手に予告する機能もあったと考えられる。
近代以降のアイルランドにおいては、社会的な通念としての禁忌のほかに、ある特定の人物に「~してはならない」あるいは「~しなくてはならない」という行動の規制を働きかける意味で使われる例もある。『ケルト文化事典』東京堂出版 「ゲシュ」項目(p.211)

物語の中でゲッシュが出てきたら「あ、こいつ、これ破って死ぬのか……」と読み手・聞き手に悟らせる機能を持ってたっていうのすごく納得ですね。絶対運命的な何か……?

ちょっと関係ない話ですが、私がすごく前にtwitterでお話したことのある方で、ゲシュをHUNTERXHUNTERの念能力における「制約と誓約」みたいに思ってる方がいらっしゃったのですが。

別にゲシュを持っているからと言って登場人物が強くなることはないんじゃないかと思います。そんな強くなるんだったら、『ダ・デルガの館の崩壊』に出てくるコナレ・モールどうなってしまうんだというか……。

では、個別に登場人物のゲシュを見てみよう。

ディルムッドのゲッシュ

  • ダアモットはグラニアからフインの許から連れて逃げてくれと嘆願された時、彼は婦人の保護を決して拒絶することなかれという『ゲーシュ』の下にあったため、万難を排したのであった。
  • 秘密の出口から脱け出てはいけないという『ゲーシュ』を、私はもっているのです」
  • フィンはまた、次のように付加えて言ったのである。「猪を狩ってはならないということが、君の『ゲーシュ』となっているのだよ」

『世界神話伝説大系41 アイルランドの神話伝説2』(名著普及会)の中で挙げられていたディルムッドのゲッシュは以上のはず。(見落としがあるかもしれないですが……)

明確な殺気しか感じないですね。

騎士道の訓戒

フィンがギイナに与えた「騎士道の訓戒」も同書から引用。多分ディルムッドもこれに従っていると思うので……。

  • 武器をとらば、奉仕することを第一義とせよ。
  • 多くの者たちの中にあっては、温和であれ。
  • 狭き道を確実に通ることに心がけよ。
  • 咎むべきなんらの過失もないのに、猟犬を鞭(むちう)ってはならぬ。
  • その罪が明らかに証拠立てられない中に、汝の妻を攻め苛んではならぬ。
  • 戦いに際しては、あらゆる道化者に干渉してはならぬ。なぜなら、彼らはすべて愚人にすぎないから。
  • かりそめにも名声をもつ者に対しては、いかなる点も咎めてはならぬ。
  • またいかなる他人の非難にも仲間入りをしないように身を持せよ。心狂える者あるいは心曲れる者とは、一切の交渉を断たなければならぬ。
  • 汝の有する温和の三分の二は、婦人たちに対して示されなければならぬ。そして床の上を這う者、すなわち幼児に対して示されなければならぬ。そして詩人たちに対して示されなければならぬ。
  • 民衆に対しては、決して暴力を用うるな。
  • 誰に対しても見識振った口を利いてはならない。
  • あるいはいかなる理由があっても、正義に背く言葉を口にしてはならない。
  • その言葉の通りに実行され得ることでもないのに、頑固に自分の言葉を通そうと試みてはならない。それは最も恥ずべきことである。
  • 汝がこの世において生を受くる限り、汝に保護を託された者を見棄ててはならぬ。たとえ黄金の報酬が約束されてもである。いかなる報酬にかかわらず、それをなすことは汝の主が許し給わないのだ。
  • 首領に向って、その部下の人々のことを訴えてはならぬ。それは高貴なる血をその身体の中に有する者の、なすべからざることであるのだ。
  • 噂を蒔く者であるな。
  • あるいは嘘を言う者であるな。
  • 饒舌であるな。
  • あるいは非難多き者であるな。
  • たとえいかに汝が善良な者であろうとも、汝自身と戦うことを恐れてはならぬ。汝の悪に対して眼を閉じてはならぬ。
  • 酒を売る家にしばしば出入りする者であるな、
  • 過ぎ去ったことに対して、ごたごたと文句をならべるな。
  • 卑しい考えをもつ人々とは、一切の交渉を断てよ。
  • 汝の肉を与えることに躊躇をするな、汝の家族の中に、一人の吝嗇者(けちんぼう)をも持たないようにせよ。
  • 汝の首領に対しては反抗をするな。そして汝の首領に対して、汝の悪口を言う理由を与えるな。
  • 汝の武器を大事にせよ。汝の武器を手より離すな。汝の参加する激しき、そして光栄ある戦いが終末を告げない間はである。
  • あらゆる者に対して断るよりは、与えることを第一とせよ。
  • そして常に温厚の赴くところに従え。

『世界神話伝説大系41 アイルランドの神話伝説2』(名著普及会)

グラニア関連のことを考えると、お前が言うなのオンパレードだってことは置いておくとして。
私は騎士にはなれそうにありません。

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櫟野もり(Ichino Mori)

ゲームばかりしながらアイルランド神話関係の雑記を書いたりしている。
今やってるのは「FGO」と「FF15」。

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