『夢のウラド F・マクラウド/W・シャープ幻想小説集』フィオナ・マクラウド/ウィリアム・シャープ(国書刊行会)

2018年4月21日

結構前にケルト関連の記事をごっそり削除して以降、新規記事はひとつも書かなかった。最近になってなんとなく気分が浮上してきて、読書記録ノート代わりにブログをリスタートさせてもいいかと思ったので、まず書いてみることにする。
ここのところはフィオナ・マクラウド/ウィリアム・シャープ(中野善夫 訳)の『夢のウラド F・マクラウド/W・シャープ幻想小説集』を少しずつ読み進めていたのでその感想にしよう。

フィオナ・マクラウド名義の作品は松村みね子訳の『かなしき女王』や荒俣宏訳の『ケルトの民話集』で読んだのだが、シャープ名義の作品の方はこれで初めて読んだ。

収録作品

収録されたのは次の20篇。

フィオナ・マクラウド名義

  • 鳥たちの祝祭
  • 夢のウラド
  • アンガス・オーグの目覚め
  • 暗く名もなき者
  • 聖別された男
  • 島々の聖ブリージ
  • 射手
  • 最後の晩餐
  • ルーエルの丘
  • 聖なる冒険
  • 風と沈黙と愛

ウィリアム・シャープ名義

  • ジプシーのキリスト
  • ホセアの貴婦人
  • 彫像
  • フレーケン・ベルグリオット
  • 丘の風
  • 涙の誕生と死、そして再生
  • 臆病者
  • 〈澱み〉のマッジ
  • ヴェネツィア舟歌

読んだ後で

収録されている20篇のなかでは、「ジプシーのキリスト」のような、血にまつわる何かで展開する話が私はどうも好きらしい。そのためかどちらかというとシャープ名義の作品の方を面白く読んだ。収録されていない作品から好きなものを選べと言われたなら、『ケルトの民話集』に入っている「罪を喰う人」The Sin-Eater がイチオシなのだが。

マクラウド名義のケルト的な素材を使った作品、キリスト教的な作品は、謎めいた味わいがあるといえばよいのだろうか。時には事典を引きながら、それらが扱っている素材の知識を試されるような気持ちで読んでいた。元ネタも好きなので仕方ない。

夢のウラドでは購入者特典として翻訳者の中野善夫氏が制作された豆本企画なるものが行われ、私は当選した。本棚に飾っている。

本当にありがとうございました。

聖なる冒険

「聖なる冒険」(マクラウド名義)では、〈躰〉〈魂〉〈意志〉が会話をする。そして旅をする。

私は単純な人間なのでこれは松岡利次『ケルトの聖書物語』に紹介されていた「魂と肉体の会話」のような説話に素材をとったのではないかと思った。

 

だが、読んでみるとむしろ「聖パトリックの煉獄」や「トゥヌクダルスの幻視」のような幻視譚、あるいは異界探訪に近いような気もしてくる。(これらの話は講談社学術文庫から出て手軽に読むことができるのが嬉しい)
トゥヌクダルスの幻視(トゥンダルのヴィジョン)に関しては『ケルティック・テクストを巡る』(中央大学人文科学研究所翻訳叢書)にも収録されている。

この連想はやや強引かもしれないという心配はあるが、そう思ったということは読み直したときのために書いておきたかった。

ふと思ったこととしては、「私たち」として〈躰〉と〈意志〉と〈魂〉がずっと一緒に側にいてくれたならきっと、夜の孤独の寂しさとかはないだろうなと思う。ずっと一緒だったものが別れた時はとても心許ないのではないだろうか。こんなことを考えるのは、自分がもう一人いたらきっと話が楽しいだろうと、いつも考えているせいかもしれないが……。

島々の聖ブリージ

「島々の聖ブリージ」(マクラウド名義)は、ゲールのマリアとも言われる聖ブリジッド伝承を下地にしている。キリスト教の聖人ではない、異教の女神を思わせる、思わずぞくっとするシーンもあってとても良い。(修道院文化も勉強しないとなあと思っている今日この頃)

ルーエルの丘

「ルーエルの丘」(マクラウド名義)は、世界の王としてミディルと、エテンという名前の美女が出てくる。登場人物からアイルランド神話の「エーダインの求婚」が背景知識として求められていると思うが、ルーエルが何かはっきりとわからない。神話に関連するのかもしれない。ルーエルという土地にまつわる話がありそうだ。わからないけど。

丘というと、生まれ変わったエーダインの夫になったエオヒド・アレウ王の弟アリル・アングヴァとの逢瀬に指定した丘を思い出すが、マクラウドの作中ではアリルではなくアルトだ。アルトといえば百戦のコンの息子アルトが有名だと思うのだが、うーん……。つらつらそんなことを考えながら「ルーエルの丘」を読んでいたので「エーダインの求婚」の話がなんとなく読みたくなった。

それで『世界神話伝説大系40 アイルランドの神話伝説』(名著普及会)を借りようかと思ったが、今回はポプラ社から出ている『国際理解にやくだつ世界の神話〈5〉ヨーロッパの神話』を読んでみることにした(読んだことがなかったので)。

同書は子供向けに書かれているからか、平易で読みやすい。「アイルランド来寇の書」、「エーダインの求婚」、「フェルディアとクーフリンの戦い」、「タリエシンの物語」、「ダヴェドの王プイス」、それに「解説」がケルト神話として入っている。

最後に

『夢のウラド』を読んだ人が素材にした神話や伝承の方にも興味を持ってくれるといいなあ、と思う。
以前紹介したこともある、マリー・ヒーニー『アイリッシュ・ハープの調べ―ケルトの神話集』(春風社)はアイルランド神話を初めて読むって人におすすめしているのだが、久しぶりに自分も読み直したくなった。

さて次は何を読もうか。三ヶ月位引きこもって積読崩しに勤しみたいのだがそうもいかないのが悲しい。それではまた。