『アーサー王ここに眠る』フィリップ・リーヴ(東京創元社)

2018年4月21日

先週、読了しました。原題はHere Lies Arthur

ミルディンがめちゃくちゃ私の好みすぎて、もう無理しんどい……を実感してしまった。
Twitterでひたすらミルディンしか言っていませんでした。

読む動機

アーサー王を検索してる際に見つけたこちらの論文を読んだのがきっかけ。

物語の力―『アーサー王ここに眠る』における「虚構」と「真実」―
新居 明子
名古屋外国語大学論集 = Bulletin of Nagoya University of Foreign Studies (1), 25-43, 2017-07

内容が面白そうだったので2017年11月17日に訳書を購入した。物語を読んで、その面白さにすっかり夢中になり、ほんとに気に入ってしまったので原著(英語)をハードカバーとKindleでも買って、再び堪能している。

内容紹介

2008年カーネギー賞受賞作だったらしい。知らなかった。あらすじは、東京創元社のページから引用する。

ブリテン島、紀元500年頃。ひとりの司令官に率いられた騎馬の男たちの集団が館を襲い、火を放った。燃えさかる館から、命からがら逃れたみなしごの少女グウィナは、奇妙な風体の男に救われる。鷹のような風貌のその男の名はミルディン。ブリテン島の統一を目指す司令官アーサーに仕える吟遊詩人。グウィナはミルディンのもとで、彼の企みに手をかすことになる。アーサー王伝説を新たな視点から語りなおした、カーネギー賞受賞の傑作。本文挿絵=羽住都/訳者あとがき=井辻朱美アーサー王ここに眠る – フィリップ・リーヴ/井辻朱美 訳|東京創元社

この物語は、アーサー王伝説、従来のものとは全然違っている。(私自身はアーサー王伝説にあんまり明るくないが)
なんてったって、私たちが知っている「アーサー王の物語」はミルディンが作り出す「虚構」として描かれている。

アーサーは完璧な騎士王ではないし、ミルディンは夢魔と人間のハーフでもない。
ただの人間たちだ。

読んだ後で

まず思ったのは、訳文がとても読みやすいし、面白い。

翻訳の妙がすばらしかった。私がこんなにミルディンのキャラクターに惹かれたのは、絶対に、訳文のせいでもあるwww

たとえば原文では、”I am Myrddin. The bard Myrddin.”という自己紹介。
これが、「ミルディンという。吟遊詩人のミルディンさまさ。」と訳してある。
自分で自分のことを「偉大なミルディンさま」と言うところもある。

グウィナに手品をしてみせるときは、

“It’s only a trick, girl. Look close.”
「娘、いまのはただの手品だよ。よっく見な」

よっく見な、のところ。この小さな「つ」が大事だ。何を言われようが、この小さな「つ」があるかないかで、だいぶ私の中の印象が変わったと思う。
悪いやつじゃないんだけれど、ペテン師っぽい。日本語のうさんくさい口調がすごく似合っている。

日本語は自分を指す代名詞の数が多い、しかもその「名詞」に対するイメージがあるので、「おれさま」だの、「ミルディンさま」だの言わせたのは個人的には素晴らしいとしか言いようがない。
主人公の一人称で語られるが、それぞれのキャラクターが生き生きとしていて読んでいて楽しかった。

そして、表紙も挿絵も美しい。やわらかい線と色合いがとても好み。

少年と少女を行き来する主人公・グウィナ。ミルディンに手を貸すことになる少女・グウィナは少女と少年の間を行き来する。
10歳程度だったと思われる少女、グウィナは少年グウィンとしてアーサーの軍に加わるんだが結構うまくやっている。

しかし、女であることを誤魔化すことができなくなる年齢に近づくと、今度は少女として、アーサーの妻グウェニファーの侍女となる。
(有名な荷車の騎士ランスロットは出てこないが、一応ちゃんとその話はある)

元々の伝説でも女として育てられていたペレドゥルと、グウィナ/グウィンの絡みの部分は、それぞれが女装男子と男装少女なだけに……少しばかり異質な印象が拭えなかった。
グウィナは、ペレドゥルにもう一人の自分を見つけたような気になるという。

ラストでは、ミルディンの、グウィナに対する気持ちが語られるところでは号泣した。お前そんなフリ全然しなかっただろう!お前そんな人生送ってたのかよ!お前そんな……ッ!!!という明かされていくものに大きく心を揺すぶられること間違いない(はず)。

最後に

アーサー王伝説について知らなくても、かなり面白かった。うーっすらと知ってるアーサー王のキャラクターとはぜんぜん違った。

孤児の少女グウィナの視点で語られる「アーサーの物語」は、吟遊詩人ミルディンの語りによってアーサー王のイメージが出来上がるのを一緒に見ていく感じで面白い。
人は信じたいものを信じるように出来ているのだと、思う。

しかし、虚構である物語は「希望」を与えていたのも本当だった。